語られない文化の「裏側」がある

銀座ブロッサムのホールに足を踏み入れると、舞台の正面に静かに掛かる一枚の緞帳がある。
上品で精緻な刺繍の上に「ある名前」が浮かび上がってくる。
松屋。三越。松坂屋。高島屋。東急。
競合である彼らの名が、同じひとつの布に縫い込まれている。

制作時期は1960年代とみられ、同ホールの開館と同時期に寄贈された可能性が高い。一般的に、公共施設は特定企業の宣伝とみなされることを避けるため、企業名を明示的に掲出することはほとんどない。(一部例外)そのため刺繍入り協賛は「全国的にも極めてレアケース」となるようだ。
松屋・三越・松坂屋・高島屋・東急…百貨店を代表する5社が並ぶ理由

緞帳に名を連ねる5社は、いずれも銀座と深く結びついてきた百貨店や商業大手だ。
松屋は銀座の文化活動へ積極的に支援しており、街の中心的存在として長く地域と結びついてきた。三越は美術や芸能への後援を数多く行い“百貨店文化”を象徴する。かつて銀座に店舗を構えていた松坂屋は、街の商業発展期を支えた歴史を持ち、高島屋も工芸や舞台美術の支援に力を注いできた企業として、文化面での貢献が大きい。また東急は、交通インフラと商業の両面から銀座・中央区の発展に関わり続けてきたことで知られる。
互いに競合関係にある百貨店が、こうして同じ緞帳に名を刻む形で協力した背景には、銀座という街特有の文化がある。企業同士が競い合いながらも、街づくりや文化支援では手を携えるという“銀座モデル”ともいえる独特の価値観だ。以前、中央区関係者は「銀座では企業同士が競争しつつも、文化や街づくりでは協力し合う。緞帳はその象徴」と語っていたのも納得だ。
「銀座は企業と街が一体である」
銀座は江戸期から続く商業地であり、近代以降は百貨店を中心に文化施設や画廊が発展してきた。商店会・企業・住民が一体となって街の文化を作ってきた歴史がある。そのため、「公共ホールの文化設備を企業が寄贈する」という特異な構図が生まれたとみられる。これは他の地域ではあまり見られない。銀座の企業は街の一部であり、街の文化を支えるのは当然という思想があった。刺繍された社名は、広告ではなく“街の支援者の記録”と言えるだろう。

銀座の未来に向けて、緞帳が語りかけるもの

銀座が単なる商業地ではなく、企業・市民・行政が一体となって文化を育ててきた都市という証拠でもある。街をつくるのは建物ではなく、人と企業の関係性のように感じる──。
そのことを静かに語りかけるように、緞帳は半世紀以上の時を越えて銀座の舞台に掛かり続けている。
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