#002 銀座図鑑「路地に入った瞬間、音が消える」


音の銀座。


銀座四丁目交差点。
信号が変わるたび、街は音で満たされる。

車の走行音。
人の話し声。
自動ドアが開閉する乾いた音。

だが、ほんの一歩。
ビルとビルの間に足を入れた瞬間、それらは急に遠のく。

音が消えた、と思う。

平日の午前中。
仕事に向かう人の足音が、すぐに背後へ溶けていく。
土日の朝はさらに顕著で、街がまだ完全に目を覚ましていない。

路地の中では、聞こえる音が変わる。
靴底が地面に触れる音。
どこかの店の換気扇。
風が建物の隙間を抜ける気配。

銀座の路地は、音を吸い込む。

表通りでは主役だった音が、ここでは脇役になる。
代わりに、空気の密度や光の角度が前に出てくる。

昔から銀座は、表と裏の距離が近い街だ。
通りを一本外れただけで、街の表情が変わる。
それは隠しているというより、使い分けているように見える。

私はこの路地に入るたび、少し歩く速度を落とす。
理由はない。
ただ、そうしたくなる。

再び通りへ戻ると、音が一気に戻ってくる。
さっきまでの静けさが、嘘だったかのように。

けれど、確かにそこにはあった。
音の銀座。

それもまた、この街の顔のひとつである。

執筆:ginzaboy
Photo:ギンザプロデュース24

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